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第6回 とがった技術で映像をもっと滑らかに――液晶ディスプレイの「I/P変換」とは?

「液晶は動画が苦手」といわれたのはもはや過去の話。ディスプレイデバイスの主役としてすっかり定着した液晶は、各種の画質向上技術を磨き上げることで、 動画の再生品質をここ数年で大きく向上させている。その中から今回は、液晶ディスプレイ/テレビで動画を滑らかに表示するための技術「I/P変換」にフォーカスする。 特に映画コンテンツを鑑賞する機会が多いならば、見逃せない技術だ。

  • 下記の記事は2009年6月29日に「ITmedia流液晶ディスプレイ講座II 第6回」に掲載されたものです。

映像を構成する「走査線」と「走査方式」

 インターレース(Interlace)映像信号をプログレッシブ(Progressive)映像信号に変換することを「I/P変換」と呼ぶ。 ひとくちにI/P変換といっても、その手法や技術レベルはさまざまだ。変換技術の完成度は、液晶ディスプレイや液晶テレビの画質に大きな影響を与えることになる。 それでは、I/P変換を語るうえで欠かせない基礎知識として、映像の走査線と走査方式から見ていこう。

 

 周知の通り、ディスプレイに動画を表示する場合は、パラパラマンガのように少しずつ内容の違う静止画を連続して映している。 この際、動画の1コマ(1フレーム)は縦方向に細かく分割され、1本の横糸のようなラインを画面の上から下まで順次なぞることで描画を行う。 ディスプレイデバイスでは、映像を構成するこの分割された1本のラインを「走査線」という。さらに細かく見ると、1本のラインは極小サイズの光の点が高速移動することで表現されている。

走査線による画面表示の仕組み
走査線による画面表示の仕組み

 

 従来からのアナログテレビ放送が採用するNTSC方式におけるSD映像は1フレームの走査線が525本(有効走査線数約480本)、 デジタル放送のHD映像は走査線が1125本(有効走査線数1080本)だ。いい方を変えると、SD映像は1フレームを縦方向に525分割、HD映像は1125分割して映していることになる。 当然、走査線が多いHD映像のほうが、映像をより細かく表現できる。

 

 実際にディスプレイ機器では、画面上端で1本目の走査線が左から右に描かれ、その後に2本目の走査線が左から右に描かれる。3本目以降の走査線も同じで、 このように画面の上端から下端まで細切れにされた映像が1本ずつ描画される仕組みだ。

 

 走査線を描画する方式には「インターレース方式(飛び越し走査方式)」と「プログレッシブ方式(順次走査方式)」の2つがあり、走査線を描く順序が異なる。 ちなみに、少し昔のPC業界を中心に「ノンインターレース」という呼び方もあったが、「ノンインターレース≒プログレッシブ」であり、現在ではプログレッシブの呼称が一般的だ。

・インターレース方式

 インターレース方式では通常、映像1フレームの走査線を2つのフィールドに分けて伝送する。 この際、1、3、5……と奇数番号の走査線を伝送するフィールドは「奇数フィールド」、0、2、4……と偶数番号の走査線を伝送するフィールドは「偶数フィールド」と一般に呼ばれる。 奇数フィールドと偶数フィールドは交互に伝送され、ディスプレイ機器でも奇数/偶数フィールドが交互に表示される。 つまり、奇数/偶数フィールドの1組で動画の1フレームを描き出しているのだ。NTSCにおけるフィールド伝送速度は「1/60秒」となっており、1秒間に60フィールド(30フレーム)の 静止画が目にも止まらぬ速さで書き替えられることで、人間の目には映像が動いているように見える。

 

 そもそもインターレース方式は、データの伝送量を抑えながら、描画回数を増やして、高解像度の映像を作り出す技術だ。 電子線を走査して画面表示するブラウン管テレビのために開発された仕組みなので、原理的に1画面を一度に表示できる固定画素方式の液晶ディスプレイ/テレビには適していない。 現在のテレビ放送やDVDタイトルなどは、基本的にインターレース方式で映像を伝送している。

インターレース方式による映像表示のイメージ
インターレース方式による映像表示のイメージ。2つのフィールドを組み合わせることで、1フレームの映像を作り出す

・プログレッシブ方式

 対するプログレッシブ方式では、1本目の走査線から最後の走査線まで、上から下まで順番に伝送描画する。 インターレース方式と違って、1フレームを2枚のフィールドに分割することなく、一度に表示できるのが特徴だ。ただし、インターレース方式に比べて、伝送により多くの帯域を必要とし、 特にテレビ放送を中心とする家電分野では従来のNTSCとの互換性確保などの問題もあり、プログレッシブ方式は長い間採用されてこなかった (現在のBSデジタル放送やCSデジタル放送ではプログレッシブ方式も採用されている)。

 

 一方、PC向けディスプレイでは1990年代初頭のCRT時代からプログレッシブ方式が主流になっている。 なお、固定画素方式というデバイスの特性上、液晶ディスプレイ/テレビにはプログレッシブ方式が向いている。

プログレッシブ方式による映像表示のイメージ
プログレッシブ方式による映像表示のイメージ。インターレース方式と異なり、1フレームを2つのフィールドに分割せず、画像のすべてを描画する

 

 インターレース方式は不完全な2枚の映像を交互に表示して描画を行うため、ちらつきやにじみが発生しやすく、特に大画面ではこうした弱点が目立つこともある。 プログレッシブ方式であれば、1フレームで1枚の完全な映像が描画されるため、ちらつきやにじみを抑えた精細感のある画質を実現できる。このように表示が安定しているという利点もあり、 高解像度の画面を凝視することが多いPC向けディスプレイでは、古くからプログレッシブ方式の製品が普及してきたのだ。

液晶で映像コンテンツを鑑賞するのに欠かせない「I/P変換」

 現在販売されているAV入力対応の液晶ディスプレイや液晶テレビは、プログレッシブ方式で映像コンテンツを表示する。 しかし、アナログテレビ放送やDVD-Videoの480i信号、地上デジタル放送の1080i信号など、映像コンテンツの多くはインターレース方式で情報を伝送するため、 インターレースをプログレッシブに変換して出力することが必要だ。

 

 そこで今回のテーマ「I/P変換」の出番となる。I/P変換技術は、今や大半の液晶テレビやディスプレイに搭載されている。 当初はディスプレイ機器の側から搭載されてきたが、昨今はI/P変換を備えた再生機も増えてきた。 例えば、DVD-Video映像のプログレッシブ出力/アップスケーリング出力に対応した再生機器(民生用のDVDレコーダーやBlu-ray Discレコーダー、プレイステーション 3など)は、 I/P変換技術を備えている。

 

 もっとも、単純にインターレース信号のすき間を埋めるだけでは映像に不自然な部分が生じてしまい、せっかくプログレッシブ化しても映像を高画質に表示することはできない。 I/P変換といっても、その仕組みや精度は製品によって異なることを覚えておきたい。

I/P変換を実現する2つの手法

 I/P変換には、大きく分けて2種類の手法がある。1つは「動き適応型」、もう1つは「2-3プルダウン型」だ。 両者ではI/P変換の仕組みがまったく違うが、どちらが優秀というわけではなく、表示する映像ソースに応じた使い分けが重要になる。 これらのI/P変換に対応した再生機器やディスプレイでは、自動で変換の手法を使い分けていると考えてよい(手動で設定できる場合もある)。

・「動き適応型」のI/P変換

 まずは「動き適応型」から解説しよう。最も簡単なI/P変換の方法は、インターレース映像の奇数フィールドと偶数フィールドを合成し、 1コマの完全なフレームを作り出すことだ(フィールド間の補完)。これは静止画であれば、きれいにプログレッシブ化できるが、動画の場合は事情が違ってくる。

 

 動画では奇数フィールドと偶数フィールドに動きのズレがあるため、単純に合成すると輪郭にジャギーやコーミングノイズ(くし形ノイズ)が発生してしまう。 奇数フィールドと偶数フィールドの時間差は1/60秒しかないが、動画を滑らかに再生することにおいてこの差は大きい。そこで、I/P変換する元ソースが動画の場合は、 奇数フィールド又は偶数フィールドを構成する走査線の情報を使い、上下の走査線から中間の走査線を生成することで、 1コマの高精細な描画よりもジャギーやコーミングノイズの低減を優先させる処理とする(フィールド内の補完)。こうした手法を動き適応型のI/P変換という。

I/P変換の違い
I/P変換の精度が低い場合は、矢印部など輪郭にジャギーやコーミングノイズが発生してしまう(写真=左)。正しくI/P変換が行われると、表示は滑らかになる(写真=右)

 

 実際の利用シーンでは、I/P変換する元の映像ソースが静止画か動画かを自動的に判別し、静止画(もしくは動きが非常に少ない動画)ならばフィールド間の補完、 動画ならばフィールド内の補完を行う。とはいえ、映像コンテンツ内で静止画や動きのない動画というのは非常に少なく、ほとんどはフィールド内の補完になり、高精細なフレームを得ることは難しい。 実際問題として、元の映像ソースを静止画か動画かで自動判別するときの誤判別や、I/P変換した後の画質劣化、動きの不自然さなどが課題とされてきた。

 

 しかし最近では、動画の検出精度やフィールド内補完の精度を高めたり、動画でもフィールド間の補完を行うなど、動き適応型I/P変換の実力は着実に向上してきている。 この部分が各メーカーの経験とノウハウ、そして腕の見せ所でもあるわけだ。

・「2-3プルダウン型」のI/P変換

 続いて「2-3プルダウン型」のI/P変換だが、これはフレームレートが毎秒24コマ(24fps)の映像ソースをI/P変換するときに用いられる。 24fpsの映像ソースとは、主に映画フィルムやアニメーション映像などだ。現在の液晶テレビ/ディスプレイは基本的に30fps又は60fpsの映像コンテンツ表示を前提に作られているので、 24fpsの映像を出力するにはこれに合うようにフレーム補完する必要がある。

 

 2-3プルダウン型のI/P変換では、まず24fps映像の1フレーム目を「2フィールド」、2フレーム目を「3フィールド」、 3フレーム目を「2フィールド」、4フレーム目を「3フィールド」(以下、同じ処理が続く)と変換し、さらにフィールド間の補完処理を施してプログレッシブ化する。

 

 原理的には非常に優れた方式だが、元の映像ソースが24fpsであるかどうかの検出が難しい。誤って30fpsの映像ソースを2-3プルダウン処理してしまうと、余分なフレームが追加されるため、 映像が瞬間的に止まって見えるといった弊害が生じてしまう。ただし、最近では24fpsと30fpsの検出精度もかなり高くなっている。

 

 また、2-3プルダウン型は、液晶ディスプレイ/テレビとの相性がいまひとつだ。基本的に、液晶ディスプレイ/テレビは60Hzのリフレッシュレート(走査線を描く速度)なので、 フレームレートは60fps(又は毎秒60フィールド)となる。2-3プルダウン処理された映像を表示すると、2/60秒間表示と3/60秒間表示のフレームが混在するため、 映像によっては動きがカクカクとぎこちなく見えることがあるのだ。

 

 そこで、比較的新しい液晶ディスプレイ/テレビの中には、24fpsの映像を2-3プルダウン処理せずに滑らかに表示する機能を持った製品がある。具体例を挙げると、 ナナオのAV入力対応ワイド液晶ディスプレイ「FORIS FX2431TV/FX2431」は、1080/24p映像の表示に対応している。これは本体側を48Hz駆動することにより、24fps映像を2倍の48fpsに変換して、 映像ソースの各フレームを2/48秒間ずつ表示する仕組みだ。各フレームの表示間隔が均一なので、動きに不自然さが生じない。

 

 FORIS FX2431TV/FX2431において1080/24p映像の表示を行うには、映像の再生機器側でも24fps出力に対応している必要があるが、 最近は多くのBlu-ray Discプレーヤー/レコーダーが対応しており、例えばプレイステーション 3でも24fps出力が可能だ。

2-3プルダウン型のI/P変換(上)と1080/24p対応I/P変換(下)の違い
2-3プルダウン型のI/P変換(上)と1080/24p対応I/P変換(下)の違い。1080/24p対応では24fpsの映像を均等な間隔で表示できるため、2-3プルダウンでは動きがぎこちない映像シーンも滑らかに表示できる

「FORIS FX2431TV/FX2431」に搭載された高性能なI/P変換とは?

 FORIS FX2431TV/FX2431の名前が出たところで、これらの製品に新しく搭載された高性能なI/P変換についても触れておきたい。 基本となる動き適応型と2-3プルダウン検出に加えて、前述した48Hz駆動との併用や、内部パラメータの柔軟な変更などにより、精度の高いI/P変換を実現している。 具体的には、以下の4つの設定がある。

FORIS FX2431TVと設定画面
パーソナル空間向けのテレビチューナー搭載24.1型ワイド液晶ディスプレイ「FORIS FX2431TV」(写真=左)。 「FORIS FX2431」はテレビチューナーを搭載しないモデルだ。I/P変換機能は基本となる「動画2-3」をはじめ、4つの設定が選べる(写真=右)

・設定1――「動画2-3」

 デフォルトの設定であり、ナナオが最も推奨するモード。通常は動き適応型のI/P変換を行いつつ、24fps映像が検出されると自動的に24fps(48Hz駆動)で再生する。 動き適応型I/P変換における動画と静止画の自動判別、及び動画/静止画が混在した映像の自動判別に関しては、最適と思われる判別のしきい値にチューニングされている。 このさじ加減がナナオ独自の画作りを構成する要素になっている。

・設定2――「動画2-3/2-2」

 上記の「動画2-3」と同じ動作に加えて、30fps映像の自動検出も行う。30fps映像が検出された場合は30fps(60Hz駆動)で再生する。 ナナオによると、30fps映像の検出精度は高くないことから、デフォルトの「動画2-3」設定には組み込んでいないとのことだ。 また、動き適応型から2-3プルダウン検出による48Hz駆動へ切り替わりやすくした、しきい値のチューニングになっている。映像ソースが30fps/24fpsの混在と分かっている場合に最適な設定だ。

・設定3――「動画」

 2-3プルダウン検出のI/P変換と、上記「動画2-3/2-2」設定における30fps映像の自動検出を行わないモード。動き適応型に限定してI/P変換を行う。 例えば、24fpsの映像に30fpsでテロップを流したり、ロケ先やスタジオの映像をピクチャーインピクチャーで合成表示するようなテレビ番組では、 動き適応型と2-3プルダウン型の処理が頻繁に切り替わり、違和感が生じることがある。こうした場合に利用することで、映像表示の違和感を低減する設定だ。

・設定4――「静止画」

 動き適応型のI/P変換で動画と静止画を自動判別する際、しきい値を静止画に寄せたチューニング。静止画の映像信号がノイズなどの影響で動画と判別され、 前半で述べたフィールド内補完の影響でチラついて見えるときに、この設定を選ぶことで低減される。ただし、動画を静止画と判別しやすくなるため、 動画の表示でコーミングノイズが出やすくなる。静止画スライドショーなどの表示でチラつき感が気になるときに設定するとよいだろう。

 

 このようにI/P変換は今も進化し続けている技術であり、すべての映像ソースを自動で最も最適な手法でプログレッシブ化するのは難しいのが現状だ。 しかし、I/P変換やそれと組み合わされる多数の画質向上技術の進歩により、液晶ディスプレイ/テレビの動画再生品質は着実に向上している。 特にFORIS FX2431TV/FX2431のように複数の設定が選択できる製品を選べば、画質にこだわりがあり、 表示する映像コンテンツに応じて画質を追い込みたいというユーザーのニーズも十分満たせるはずだ。

 

 なお、FORIS FX2431TVについての詳細は、こちらの記事 (TV、PC、AV、Game、何でもござれ:ライフスタイルをもっと豊かにする"新しい扉"――テレビ搭載のフルHD液晶ディスプレイ「FORIS FX2431TV」と暮らす (ITmediaサイト))も併せてチェックしてほしい。

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