産業向け

映像で新たな価値創出を

※本記事は2021年8月25日に「海事総合誌 COMPASS 2021年9月号」《舶用工業の底力 第58回》に掲載されたものです。
 本記事は海事プレス社の許可を得て掲載しています。

 ディスプレイなどの映像環境ソリューションの開発、設計、製造、販売を行うEIZO(本社=石川県白山市、実盛祥隆社長)。創業から半世紀余り、一貫して映像にこだわったビジネスを展開している。一般的な事務用途のモニターからスタートし、医療環境、クリエイティブワーク、産業用途向けと事業の幅を拡大。舶用市場へは2012年に本格参入し、ECDIS(電子海図情報表示装置)やレーダー表示用のモニターやチャートテーブル(電子海図台)などを手掛けている。日本財団の無人運航船プロジェクトにも参画し、グループ会社も含めた映像技術の融合で非常対応システムの開発に挑戦。船外撮影、記録、配信、表示までをトータルでサポートするシステムの構築を狙う。

海事総合誌 COMPASS船舶製品の企画・開発メンバー

■「映像」にこだわり半世紀

 1968年3月、ナナオ(現EIZO)の前身となる羽咋電機が石川県羽咋市の地に誕生した。73年には社名をナナオに変更し、電子機器の開発、生産、販売を開始。自社ブランド「EIZO」で欧州向けにモニターの販売を開始したのが85年。そして2013年、社名をブランド名に統一し「EIZO株式会社」となった。
 現在は医療分野や、厳密な色の再現性が求められるクリエイティブワーク分野、舶用向けを含む産業分野など、それぞれの市場で存在感を示す。全社の売上のうち最も多くを占める医療環境向け製品では、国内シェアのトップを走る。
 今年3月時点でのグループ全体の社員は、2469名。うち約900人が働く本社には、企画、開発、品質保証、生産機能など、ものづくりに必要な全機能を備える。17年3月には、本社敷地内に耐水・耐震といった各種試験が行える試験評価棟も整備した。
 国内販売拠点は9カ所、海外拠点は15カ所。EIZOは、品質を重んじる傾向がある欧州のドイツ語圏に特に強い。石川県で生産する製品も、約半数が海外向けだ。

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本社前景
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本社工場での船舶モニター調整の様子


 舶用製品を含む産業用途向け製品全体での21年3月期売上高は約86億円で、売上全体の11%ほどを占めている。今期も同等の売上を見込んでおり、現時点での通期予想は、全体売上高の10.7%を占める88億円となっている。
 近年は視認性向上技術製品やLANケーブル・ハブを介してIPカメラ映像を直接モニターに表示できるIPデコーディング製品など、モニター以外の製品の取り扱いも増えている。
 18年には、手術室向けの撮影と記録、配信に特化した製品を手掛けるカリーナシステムを子会社化。同社製品との組み合わせによる提案も拡大している。

■主力は高機能な表示用モニター

 船舶向けの主力製品は、レーダーやECDIS、機関監視制御システム表示用の19型、26型モニターだ。日中でも視認性を保つ高輝度性能や、夜間でも見やすいよう低輝度まで調整できること、高信頼性が特徴。世界各国の船級や、レーダー・ECDISの様々な認証を取得している。
 電子海図表示用の46型タッチパネル液晶モニター「DuraVision MDF4601WT」も開発し、17年から市場展開を図っている。平置きして複数人で海図などを閲覧・操作するチャートテーブルとして使用可能で、今年7月には、船舶用モニターとしては同社初となる4K(解像度3840×2160)表示に対応する、55型タッチパネルモニター「DuraVision MDU5501WT」を販売開始した。両製品の併売で、ラインアップ拡充を図る。
 
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ECDISやレーダー表示用の26型船舶モニター
 

 昨年には、港湾監視業務などに有効な視認性向上システム「DuraVision EVS1VX/EVS1VS」を発売。カメラで撮影された映像データを補正し、映像を鮮鋭化させてモニターに表示できるボックス形状のシステムで、社会インフラや設備の保全・定常監視業務など幅広い展開が見込まれ、省人化や省力化といった面でのメリットも期待される。今年3月には、見やすく補正した映像の任意の場面を静止画としてキャプチャーし、USBメモリーに保存できる機能をオプションとして追加した。
 同社の舶用製品の特徴は、機能性や堅牢性などにおいて、船上での利用に特化したつくりになっていることだ。本社敷地内に構える試験評価棟で、振動、耐熱、水流、粉塵といった各種耐久性試験を実施し、厳しい基準をクリアしたものを出荷している。舶用機器のシステムベンダーとのやり取りがメインとなるため、「ベンダーが求める、あらゆる要件をきちんと満たす製品を製造できることが当社の強みだ」(企画部の森田美知太郎係長)。

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55型チャートテーブルモニター
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視認性向上システム


■無人船、効果的な映像伝送を

 無人運航船の実用化を目指す、日本財団の「MEGURI2040プロジェクト」。5つの実証実験プロジェクトが採択され、取り組みが進んでいる。EIZOはこのうち、日本郵船グループの日本海洋科学が率いるコンソーシアムのメンバーとして、非常対応システムの開発に挑む。
 具体的には、船舶の周囲の状況を超高感度カメラで監視し、その監視した映像を、レコーダーに記録するとともに、そのデータを船陸間通信によって陸上に送信。陸上側でその映像を効果的に表示するための、表示機器の開発も手掛ける。
 映像を陸上に送る際には、衛星通信や高速通信回線といった通信インフラを活用するが、EIZOは、通信方法が限られた環境の中で、いかに効果的に映像を伝送するかに焦点を当てた技術開発を進めている。開発に当たっては、グループ会社のカリーナシステムと連携。主に映像の撮影・記録・配信技術をカリーナシステムが、映像の表示をEIZOが担い、監視や映像の撮影、記録、配信、表示といった全工程における最適な環境を構築する。

 具体的には、カリーナシステムが主に監視用の超高感度カメラや映像伝送用のエンコーダーを、EIZO側が監視映像の視認性を向上させるシステムや表示用のデコーダー、モニターなどを担う。カリーナシステムを子会社化後、船舶向けに両者の一連の技術を組み合わせるのは、今回が初のケースとなる。
 一方、無人運航船プロジェクトで課題となるのは、通信帯域をいかに効果的に使うかだ。一般的に通信帯域は常に変動してしまう。その変動する帯域に合わせて、映像をいかに効率よく送るか。
 この課題を解決するためには、新たな映像伝送規格への対応がカギとなる。EIZOは今年6月、同社の監視セキュリティ2製品が、映像伝送規格「SRT(Secure Reliable Transport)」に対応したと発表した。SRTを用いることで、帯域が変動する不安定なネットワーク環境でも安定した映像伝送を実現する。
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無人運航船プロジェクトで用いるEIZOおよびカリーナ製品


 船舶市場では、船陸間の不安定になりがちな通信環境で監視映像データをやり取りする場合などでの活用が見込まれ、「SRTへの対応が、無人運航船プロジェクトにおいても一つの効果的な要素になる」(映像ソリューション営業部の久保田勝課長)。また、同時期にカリーナシステムの製品もSRTに対応しており、新たなプロトコルに適用した機器同士をつなげることで、さらなる安定性の確保につなげる。
 通常、通信環境が悪い場面で映像を送ろうとすると、コマ落ちするような見え方が発生する可能性があり、リアルタイムに正しい状況が確認できなくなってしまうという。一方、SRTに対応することで、コマ落ちしない、安定した映像を送ることが可能となる。こうした技術も組み合わせながら、現在、映像伝送の適正度合を上げている。

 無人運航船プロジェクトが目標に掲げる「無人化」、「省力化」は、業界全体としても大きなゴールに設定されている。これを実現するためには、EIZOの撮影、記録、配信、表示の全てに対応する技術「イメージングチェーン」が、不可欠な要素とみている。
 無人運航船に限らず、船上におけるネットワークは陸上とは異なり、帯域の問題や環境体制といった課題が出てくる。そうした環境下でも繋がり続けることが、今後、船舶の高度化においても大きなカギとなってくる。EIZOはグループを含めた映像技術を駆使し、その課題をクリアしていくことで、船舶分野でのイメージングチェーンの構築を目指す。

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企画部の森田美知太郎氏(写真中央)の打ち合わせの様子
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映像ソリューション営業部の久保田勝氏

■映像で省力化・省人化に貢献

 海事業界に置いては、内航船を中心に、船員の高齢化や若手不足などが深刻化している。船員の業務負担の軽減は、喫緊の課題だ。こうした中、EIZOは特に省人化・省力化への寄与を図る方針だ。自社の製品や、それらを効率よく組み合わせたシステムも含め、プロダクトとシステムの提供による貢献を狙う。
 同社は今年5月、21~23年度を対象とする中期経営計画を発表した。ゴールとして掲げるのが、システム事業と、プロダクト事業の双方の強化だ。グループ会社のカリーナシステムの技術も合わせ、撮影、記録、配信、表示をトータルでサポートする「イメージングチェーン」をさらに発展させることを目指す。船舶市場での取り組みは、まさにその一環となる。
 EIZOは、様々な市場のニーズを吸い上げた製品開発を行っていることが特徴だ。例えば、ある市場で成功した製品を船舶市場に適用する、といった形でシナジーを加えることで、ビジネス拡大につなげられる強みがある。
 海外の船舶市場に目を向けると、巨大なシステムインテグレーター企業の台頭が目立つ。一方、日本の場合は、様々な分野の専門家が揃うことが強みだ。環境対応、DXといった大きな流れの中で、海外とは異なったアプローチが考えられる。
 EIZOが期待するのは、様々なノウハウ・技術の組み合わせによる相乗効果だ。従来の海事クラスターのみではなく、EIZOのように、ある種「異業種」とされるようなメーカーが取り組みに加わり、コラボレーションすることで、これまでにない、新たなものが誕生することに期待する。「それによって、海外の巨大なシステムインテグレーターに対抗できるものができるのではないか」(久保田氏)。
 今回の日本財団の無人運航船プロジェクトに関しても、一時的な実験ではなく、継続した取り組みにつながることを期待する。狙うは日本発信で、新たな取り組み、提案を世界に提示することだ。「その中で、EIZOがしっかりと貢献できるようにしたい」。

 

■仕上げは熟練者の目視確認

  EIZOが手掛ける産業用舶用工業向け製品は、100%自社開発だ。2017年には本社敷地内に、試験評価棟を整備。開発、評価、生産の全工程を一貫して行える体制を整える。舶用製品は高い耐環境性が求められるが、それらの試験も含めて、社内で完結可能だ。高品質性を担保しつつ、顧客要望に応じた柔軟なカスタマイズにも対応する。
 製品出荷前の工程として必ず行われるのが、熟練のスタッフたちによる「目視での確認」だ。「測定器での確認に加え、人の目で、しっかりと画質を確認してから出荷している」(森田氏)。石川県から世界へと展開される高品質なEIZO製品の背景には、映像のエキスパートたちの熟練技があった。
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目視での最終確認の様子
 

 

 

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