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クリエイティブワーク

【映像制作者向け】カラーワークフロー連載 第3回

映像制作者のためのカラーワークフロー

 

第3回 モニターの調整は、なぜ必要?

 

EIZOのColorEdgeシリーズには、正確な色調整のために、キャリブレーションセンサーが筐体に内蔵されているモデル(ColorEdge CGシリーズ)があります。コンピュータに接続するPCモニターは、デジタルで正常に映像信号が伝送・表示されるなら、どんなモニターであっても個体による誤差や色のズレなんて気にしなくても良い。そう考えている方も少なくないかもしれません。ではなぜ、ColorEdgeには色を調整するための機能が搭載されているのでしょうか。

CG279X_キャリブレーション

電子機器は時間と共に性能が変化するもの

モニターは、電子信号を人の目で認識できる光のRGB色に変換する電子機器(デジタル機器)です。デジタル信号を扱っていても、この光を生み出すためにモニター内に実装されたバックライトやカラーフィルターが物理的に劣化していくことはどんなモニターでも避けられません。キャリブレーションセンサーはこの光の変化を測定し、あらかじめ劣化分を加味した信号を表示デバイスに送り込むことで、最終的に出力される光を目的通りの光に調整しています。

私はEIZOのモニターを20年近く仕事で使ってきて、経年劣化が非常に少ない製品だということを知っています。加えて、ColorEdge CGシリーズにはモニターの色調整を正確に行うためのキャリブレーションセンサーが搭載されています。先に述べた、電子機器における避けては通れない経年劣化への配慮を製品に盛り込んでいることが伺えます。
ICチップ

モニターの色調整の工程

モニターの色調整のことを「キャリブレーション」と呼ぶことがあります。本連載でもすでに何度かこのワードを使ってきました。今回はモニターの色調整の工程をもう少し掘り下げてみましょう。先に、デジタル機器でも内部にはアナログ要素が盛り沢山だと説明しました。それぞれの機器の特性にはわずかですが違いがあり、厳密には同一ではありません。モニターが発光する色は、BT.709やDCI-P3などの規格に沿った厳格な目標値があります。

モニターのわずかな特性の違いを、測定器(キャリブレーションセンサー)を使って数値化して測ることをプロファイリングと呼びます。プロファイリングで得た個体の特性から、BT.709などの目標規格に調整することをキャリブレーションと呼びます。一般的には、このプロファイリングからキャリブレーションまでの処理をまとめてキャリブレーションと呼んでいます。

色調整のためのColorEdge専用のキャリブレーションソフトウェア『ColorNavigator』にもこれらの処理が備わっています。モニターで正確な色調整が欠かせないのには、個体の特性のばらつきを補正することに加えて、目標の規格に沿って発光する色を調整しなければならないという理由があります。経年変化が現れる実績から、モニターの調整は、200時間に一度実施するようにEIZOは推奨しています。200時間経過したモニターは、数値では表示変化が起きていますが、目で見て色の表示にズレが出ているかどうか判別することはできないと思います。

しかし、色を見る能力は、年齢や性別に関係なく日々のトレーニングで、ある程度鍛えることができるそうです。例えば、センサーメーカーのx-rite社が提供するWebサイトのカラーIQテストを使うことで、日常的にパソコンやスマートフォンで色の見極めの能力を鍛えることができます。本来は映像業界にいる技術職の者は定期的に訓練するくらいの心構えが必要なのかもしれません。できていない私が申し上げるのは恐縮ではありますが。

※ カラーIQテストのWebサイトは、色の識別能力の評価を簡易的に再現した物です。色の識別能力の正しい評価はファンズワース・マンセル 100 ヒューテストで行うことを推奨します。

ColorEdge専用カラーマネージメントソフトウェア「ColorNavigator 7」
ColorEdge専用カラーマネージメントソフトウェア「ColorNavigator 7」
x-rite社提供のカラーIQ(色彩感覚)テスト
x-rite社提供のカラーIQ(色彩感覚)テスト

日常のモニター調整

液晶モニターは、電源を入れてから、液晶表示デバイスやバックライトなどの発光装置が物理的に温度安定するまでに時間がかかり、その種類によって個体差があります。昔のアナログ放送機材では、テレビの本番の数時間前に電源を入れてエージングさせることが欠かせませんでした。これはすでに昔話にはなっていますが、実は現在のデジタル放送機材でもエージングは必要です。ColorEdgeは近年、電源を入れてから表示が安定するまでのエージング時間の短縮に取り組んできました。最新のフラッグシップモデルColorEdge CG3146では、電源投入から表示安定までにかかる時間はたった3分です。私たちモニターユーザーは日々の使用や維持管理において、どのようなことが求められるのでしょうか。

ColorEdgeシリーズのように安定した色表示ができ、経年劣化が少ない製品でも、メーカーが推奨する時間以内のキャリブレーションが欠かせません。これは先に述べたように電子機器には避けられない経年劣化事情があるからです。では、モニターの発色が正確かどうか視覚的に判断するにはどうすれば良いのでしょうか。カラーIQテストのような訓練を行い、目を鍛えるにしても、時間がかかります。そこで、私がお勧めする日々のモニターの色確認テクニックをご紹介します。

日常のモニター調整

写真撮影のスタジオには必ず置いてある『ColorChecker Classic』、通称「マクベスチャート」。先のカラーIQテストを公開しているx-rite社の製品です(詳細はこちら:x-rite社Webサイトへ)。x-rite社のWebサイトではチャートに含まれるカラーパッチのRGB値が公開されています。私はそのRGB値を使って似たような自前のカラーチャートを作りました。ベクトルベースの画像ツールAffinity Designerでデザインしたものをビットマップ画像に出力、それをDaVinci Resolveから動画メディアファイルに書き出して作成。これを日々の色確認で使用しています。このカラーチャートには、カラーパッチだけではなく、データレベルを確認する際の16-235向けのグレースケール、モニターのスケーリングを確認するための1ピクセル幅のカーソルが含まれます。モニターで厳密に色の確認が必要な際、いつもこの同じチャートを使用することで、自分の目を慣れさせることができると考えています。

ここまで、安定したモニタリングに必要不可欠な色調整、正しい色の確認方法についてお話してきました。実は、忘れられがちな重要なポイントがもう一つあります。それは、モニターの表面を綺麗にクリーニングすることです。モニターを見ながら指示を出す際に、指先で無造作に画面をベタベタ触る人がいます。カメラのレンズを無神経に指で触る者がいないのと同様、モニター画面も同じように扱うべきであることに疑う余地はありません。光の入り口も出口も、繊細に扱うべきだということは言うまでもありません。

カラースペースの特徴

動画のカラースペースはBT.709である。という言葉だけは仕事の中で繰り返し聞いたり言葉で伝えたりしてきたと思います。今回は一般的に使われる規格の背景について、紹介することにしましょう。

カラースペースの特徴

BT.709

一般的には、Rec.709と言われることが多いこの規格ですが、実はBT.709の方が正確な名称です。ITU-R(国際電気通信連合 無線通信部門)が勧告している中のBTグループの中の709番だったのです。Rec.はRecommendationのことなので、日本語では勧告や提言が近い意味合いだと思います。ITU-Rが勧告したテレビ放送に向けた番号が709だったわけです。このBT.709は、特に日本では面倒なことになっていて、民生用のテレビ機器で正確にこの規格を守っている製品は皆無だろうと個人的には感じています。この規格を守っているのは、テレビ番組を制作している一部の制作者くらいなのです。またこの規格の白色点の色温度の規定は6500Kなのですが、日本では過去の歴史の中で勝手に9300Kに変更して運用してきています。
また、BT.709で規定されるガンマカーブはガンマ1.9近似ですが、業界の事実上の標準は2.4となっています。これらの要因で、制作者の現場では混乱が消えませんでした。

sRGB

先のBT.709が長男だとすると、sRGBは次男になります。テレビ向けの規格を元にしてコンピュータ向けの規格を策定した流れがあって、その際お手本としたカラースペースがBT.709でした。したがって、両者のカラープライマリーは完全に同一です。しかし、ここでも厄介なことに両者のガンマカーブは異なります。先に述べたBT.709のガンマに対し、sRGBのガンマは2.2です。sRGBはコンピュータ向けに決められた規格でしたが、最近の製品ではAppleを筆頭にして、もっと色鮮やかなカラースペースが主流になりつつあります。これは私の考えですが、映像制作業界においてはおそらく近年中にsRGBはその進化形であるDisplay P3に置き換わっていくのであろうと思っています。

Display P3

米国の映画制作会社で構成される業界団体Digital Cinema Initiatives(DCI)が定めたデジタルシネマ規格にDCI-P3があります。デジタルシネマの上映が日本国内の映画館でも一般化する中で、国内の映画制作業界の色基準としても定着しました。このカラースペースはsRGBやBT.709よりも広く、周りの照明を消して視聴する映画館において豊かな階調表現が期待できます。このカラープライマリーをコンピュータの中で再現しようとAppleが提唱したカラースペースがDisplay P3です。色域はDCI-P3と同じです。しかし、ガンマは2.2で、DCI-P3の2.6とは異なります。DCI-P3は映画館のような真っ暗な場所にあるスクリーンに明るい映像を表示するため、低階調部の階調表現が豊かになるようなガンマ値が設定されています。

BT.2020

BT.709の歴史は古く、現在、視聴者のニーズを満たすことが難しくなってきています。そこで登場したのが4K/8K放送やスーパーハイビジョン放送に使われるテレビ規格BT.2020です。カラースペースは一般的な規格の中では最も広く、100%カバーできる市販のモニター製品はまだ存在していません。すでに、この規格を想定したコンテンツプロバイダーも存在することと、HDRコンテンツでも採用されることから、次世代だからと言って逃げることができなくなる日もすぐそこに来ています。

 

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筆者紹介|山本久之
山本久之氏 写真テクニカルディレクター、日本大学藝術学部写真学科講師
マウントキュー株式会社代表取締役

20歳より映像業界でお世話になり、すでに36年が経過しました。その間映像技術のさまざまな分野で経験を積み、ポストプロダクションやワークフローが最近の主なフィールドです。
Webサイト:https://mount-q.com

 

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