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クリエイティブワーク

【映像制作者向け】カラーワークフロー連載 第1回

映像制作者のためのカラーワークフロー

 

第1回 そのモニターの色、正確ですか?

 

はじめに

みなさんはじめまして。テクニカルディレクターの山本久之です。今月から隔月連載で、映像制作に役立つ技術的な知識を解説することになりました。よろしくお願いします。私はこれまで主に、ワークフローの中ではポストプロダクションに位置する、img01「後処理」を主戦場として仕事をしてきました。すでに現場での実務から距離を置いていますが、少し離れた場所から俯瞰して、ときには現場に出向いて、そこで汗する皆さんの背中を押す仕事をしています。具体的にはテクニカルサポートやコンサルティング、ときには実務もこなすこともあります。カバーできる分野は映像技術全般ですので、この連載では、現在課題になっているお困りごとや、この先登場する新技術への対応方法など、経験を活かした技術的な情報を発信していきます。

 

img02形のない「映像」を表現するモニター

ひとことで映像とは書きましたが、ジャンルは今や多岐にわたることはみなさんご承知でしょう。そして、制作するジャンルが異なれば、同じ言葉でも大きな誤解となって解釈されることも少なくありません。YouTuberという職業がここ数年で認知されましたが、これは言い換えれば映像を表現する「舞台」が新しく創出されたことを意味します。このように、映像のニーズや表現方法は多様化しましたが、それらを最終的に表示するところは、モニターやスクリーンといったレガシーで実績のあるデバイスです。そして、残念なことに、この映像を表現する「舞台」に関する正確なハンドリングには、手を焼いている方も少なくないでしょう。せっかく丹精込めて造った映像コンテンツにもかかわらず、最後に表現するデバイスを自分でコントロールできずにいるために、意図した色で表現できていないことが多いのです。

今あなたが使っているそのモニター、色は正確ですか?

 

コンピュータモニターの課題

言うまでもなく、今や映像制作の処理においてコンピュータやソフトウェアの占める部分は、どんどん拡大するばかりです。もしあなたに大きな製作予算があり、フィルムで撮影してフィルムで上映するようなプロジェクトに携わることになったとしても、これは例外ではありません。フィルム撮影とフィルム上映は、歴史あるアナログ技術ではありますが、それに挟まれたDI(Digital Intermediate)の部分はデジタル化されています。そして、コンピュータの数だけ、その結果を確認するためのモニターが存在します。この、コンピュータモニターの色表現については、映像制作者はこれまで無頓着だったことを皆反省するべきだと思っています。これは私自身の自戒を込めた考えです。

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特にテレビ番組やテレビで放映するCMの制作に関わってきた者からすると、その経験年数が長いほど、コンピュータモニターへの「諦め」は強いと思います。テレビの制作業界には伝家の宝刀「マスターモニター」があります。このマスターモニターと呼ばれるモニターは、最終色確認用途に信頼が厚く、放送局だけではなく後処理の工程でどこでも目にする高価なモニターです。色の再現には定評と実績があり、これで見える色が常に正確と言われてきました。この時代は比較的長く続いていましたが、2000年以降、制作工程でデジタル化が進んだことで、徐々にマスターモニターの存在意義と役割が変わりつつあります。制作しているコンテンツの展開先が、動画配信サービスやブルーレイディスクなど、テレビ放送に留まらないケースが増えていき、テレビ制作向けだったマスターモニターでは目的にマッチしなくなり始めたのです。 img04


このような「マスターモニター離れ」によって、普段の制作で使っていたコンピュータモニターへの期待度が高まったのは自然な流れです。コンピュータモニターでもマスターモニターと同じようなクオリティを期待はしたものの、実際に使ってみると、その期待は簡単に裏切られてしまいます。この段階で制作者が至る回答は、コンピュータモニターとマスターモニターは「規格」が違うので色は合わなくて当然、という誤った解釈でした。2020年の現在では過去のこのような誤った解釈は修正され、比較的安価になったコンピュータモニターを実制作で正確に、そして賢く活用する時期に来ています。
 

BT.709規格とsRGB規格

映像制作といえば、VTRを使ってビデオテープに記録していた時代がありました。その頃は目にすることはありませんでしたが、コンピュータで動画を当たり前に扱えるようになると、色の表現空間が技術解説の場で登場する機会が増えました。実を言うと私は古い映像技術者なので、CIE色度図を初めに見た頃はピンときませんでした。その後頻繁に出てくるようになって、重い腰を上げて理解を深めようと考えを変えた次第です。img05


人間の色に対する感覚は、まさに十人十色です。ひとによって異なる色に対する感覚をモデル化する試みは、今から100年近く前から進められていました。その結果策定されたのが色空間であり、馬蹄形と言われるあの色度図です(右図参照)。

もしこのような色空間が存在しなければ、世の中にある色の定義ができなくなってしまいます。例えば、信号機の緑色は当然のように誰がどこで見ても同じ印象です。色の基準がなければ、関東に比べて関西の緑色の方が薄く見える、みたいなことが発生するかもしれません。これでは色に対する印象が統一できず、問題になってしまいます。映像制作の中での正確な色とはこのようなことであり、テレビ放送の基準になっているBT.709はどんな環境であっても、誰が見ても、同じでなければならないのです。

動画のジャンルや配信する先が増えたことで、規格も徐々に増える傾向にあります。それによって、異なる規格間で相互に変換する必要性も生まれてきて、正確なハンドリングが制作現場に求められるようになりました。

コンピュータモニターで採用されてきたsRGB規格は、ハイビジョン放送の規格を策定するBT.709を参考に作られた経緯があります。色の範囲を示す色域は同じで、階調の特性を示すガンマカーブは両者で違いがあります。この兄弟の関係のようなBT.709とsRGBを正確に取扱うことができれば、当面は映像制作の現場では仕事の大半をカバーできると思います。その経験を積みながら、次世代テレビ放送の規格BT.2020の運用実績も積んでいけば、徐々にカバーできる分野も増えてくるに違いありません。

現在使っているコンピュータモニターは、BT.709もしくはsRGB規格を正確に表示できているでしょうか?これに対して正確な答えを出せるかどうかが、映像制作の中のカラーワークフローに対して自信を持って対応できるかどうかの違いとなって現れることになります。
 

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筆者紹介|山本久之
山本久之氏 写真テクニカルディレクター、日本大学藝術学部写真学科講師
マウントキュー株式会社代表取締役

20歳より映像業界でお世話になり、すでに36年が経過しました。その間映像技術のさまざまな分野で経験を積み、ポストプロダクションやワークフローが最近の主なフィールドです。
Webサイト:https://mount-q.com

 

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