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第8回 なぜ画面に直接触って操作できるのか?――「タッチパネル」の基礎知識

スマートフォンをはじめ、iPadなどのスレート型端末、デジタルカメラの背面液晶、ニンテンドーDS、そしてWindows 7など、最近注目を集めるデジタル製品はタッチパネルへの対応が1つのキーワードになっている。ひとくちにタッチパネルといっても、画面に触れた指やペンを検出する方式はさまざまだ。今回はタッチパネルの基本的な検出方式を取り上げ、その特徴と最適な用途について紹介しよう。

  • 下記の記事は2010年9月27日に「ITmedia流液晶ディスプレイ講座II 第8回」(ITmedia +D PC USER)に掲載されたものです。

すっかり生活に溶け込んだタッチパネル

 「タッチパネル」とは、画面に直接触れることにより、コンピュータの操作が行える装置のこと。ディスプレイ部にタッチ操作検出用のセンサーなどを統合することで、画面に接触した指やペンの位置を感知し、コンピュータに指示を与えることができる。いわば、表示と入力の2つの機能を融合したデバイスだ。

 

 普段は意識しないかもしれないが、わたしたちの生活を振り返ってみると、タッチパネルがすっかり浸透していることが分かる。スマートフォンをはじめとするデジタル機器が好きな人は当然として、そうでない人でも、銀行のATMや駅の切符販売機、コンビニのキオスク端末、量販店のデジタルフォト印刷機、図書館の情報端末、コピー機、カーナビなど、日常でタッチパネルに触れる機会は多いだろう。

すっかり生活に溶け込んだタッチパネル

 

 これほどまでタッチパネルが普及した背景としては、「直感的に操作できる」というメリットが大きい。画面に表示されたアイコンやボタンに直接触れて入力できるため、操作方法が分かりやすく、コンピュータの操作が不慣れな人でも迷わず使いやすいのだ。また、表示と入力の装置を1つにまとめることで機器全体の小型化やシンプル化に貢献したり、ハードウェアのボタンがないことから操作性をソフトウェアで柔軟に変更できるといった特徴がある。

タッチパネル付き液晶ディスプレイの主な用途
タッチパネル付き液晶ディスプレイの主な用途。さまざまなシーンで利用されている

 

 タッチパネルには、表示の視認性を筆頭に、位置検出の精度、操作の反応速度、表面の耐久性、導入コストなど、さまざまな要素が求められるが、タッチ操作の検出方式によって特徴は大きく違ってくる。以下にタッチパネルの代表的な検出方式を取り上げよう。

抵抗膜方式

 2010年現在、タッチパネル市場で最も多く採用されている検出方式が「抵抗膜方式」だ。「感圧式」や「アナログ抵抗膜方式」と呼ばれることも多い。単体の液晶ディスプレイ以外では、スマートフォンや携帯電話、PDA、カーナビ、ニンテンドーDSなど、小型から中型の機器で幅広く採用されている。

 

 この方式では、指やペンなどで押した画面の位置を電圧変化の測定によって検知する。内部構造は、それぞれ透明電極膜(導電層)を配置したガラス面とフィルム面を少しだけすき間を設けて張り付けたシンプルなものだ。フィルムの表面を押すと、フィルム側とガラス側の電極同士が接触して電気が流れ、その電圧の変動を検出することで接点の位置をとらえる。

抵抗膜方式

 長所としては、構造が単純なので低コストで製造でき、消費電力が比較的抑えられているほか、表面にフィルムを塗布していることからホコリや水滴に強い点が挙げられる。フィルムへの圧力で入力するため、指だけでなく、手袋をしたままの状態やペンで入力できたり、手書き文字入力を行うことも可能だ。

 

 短所としては、フィルムと2枚の導電層によって画面の透過率が低くなる(表示品質が低下する)点、耐久性や耐衝撃性が比較的低い点、画面サイズが大きくなるほど検出精度が下がる点(画面を複数エリアに分けて検知するなどの工夫で検出精度は保てる)が見られる。

静電容量方式

 抵抗膜方式の次に採用例が多い検出方式が「静電容量方式」だ。前述のアナログ抵抗膜方式に対して、「アナログ容量結合方式」とも呼ばれる。単体の液晶ディスプレイ以外では抵抗膜方式と同様、スマートフォンや携帯電話などに使われることが多い。

 

 この方式では、画面に指で触れると発生する微弱な電流、つまり静電容量(電荷)の変化をセンサーで感知し、タッチした位置を把握する。指を画面に近づけると、人体の静電容量にセンサーが反応するため、画面に接触する寸前でポインターを動かすような操作も可能だ。

 

 同方式のタッチパネルには表面型と投影型の2種類があり、それぞれ内部構造が違う。

表面型静電容量方式

 表面型は比較的大型のパネルで使われるケースが多い。その内部は、ガラス基板の上に透明電極膜(導電層)を敷き、表面に保護カバーを重ねた構造だ。ガラス基板の4隅にある電極に電圧をかけてパネル全体に均一な低圧の電界を発生させ、指が表面に触れた際の静電容量の変化をパネル4隅で測定し、指の座標を特定する。

表面型静電容量方式

 

 投影型に比べて構造がシンプルで低コストだが、2点以上の接触を同時に検知(マルチタッチ)することは構造上難しい。

投影型静電容量方式

 投影型は表面型より小さな画面サイズに用いられる場合が多く、昨今では携帯機器において注目度が非常に高い。iPhone/iPod touch/iPadもこの方式によって、高速応答で高精度なマルチタッチ操作を実現している。

 

 内部構造については、演算処理ICを搭載した基板層の上に、特定のパターンで大量に並べた透明電極の層を配置し、表面にはガラスやプラスチックなどのカバー(絶縁体)を重ねている。表面に指を近づけると複数の電極間の静電容量が同時に変化するが、この電流量の比率を測定することで、高精度に位置を特定することが可能だ。

投影型静電容量方式

 

 投影型は電極の数が多く、正確な多点検出(マルチタッチ)を行えるのが特徴だ。ただし、スマートフォンなどに使われる「ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)エッチング式」の投影型は、大型化すると抵抗値が高くなり(電流の伝達速度が遅くなり)、位置検出の演算量やノイズが増えることから、大画面には向いていない。

 

 大型タッチパネルでは、透明な電極層として極細の電線を格子状に並べる「センサーワイヤー式」の投影型も用いられる。センサーワイヤー式は抵抗値が小さく高感度だが、ITOエッチング式より量産性が低い。

 

 以上、2つの静電容量方式の違いをまとめたが、全体としての特徴は抵抗膜方式と違って衣服の袖や通常のペンには反応せず、ホコリや水滴に強く、耐久性や耐傷性が高いことが挙げられる。また、抵抗膜方式に比べると透過率が高い。

 

 一方、指以外では静電容量方式に反応する専用タッチペンでしか操作できず、手袋をしたまま扱えない点、近くに金属筐体がある場合にその影響を受けやすい点は気を付ける必要がある。

超音波表面弾性波(SAW)方式

 「超音波表面弾性波(SAW)方式」は、主に抵抗膜方式の短所である低い透過率を解消し、明るく視認性が高いタッチパネルを実現するために開発された。単に「表面弾性波方式」や「超音波方式」とも呼ばれる。単体の液晶ディスプレイ以外ではPOSやATM、キオスク端末など、公共スペースでも広く使われている。

 

 この方式では、指などで触れた画面の位置を超音波表面弾性波の減衰によって検知する。内部構造としては、ガラス基板の隅に配置した複数の発信子(圧電トランスデューサ)から、パネル表面に振動として伝わる超音波表面弾性波を出し、発信子の向かい側に設置した受信子でこれを受ける。画面に触れた場合、超音波表面弾性波が指などに吸収されて弱まるため、この変化を検知することで、位置を特定できる仕組みだ。もちろん、指で触ったときに振動を感じるようなことはなく、操作性はよい。

超音波表面弾性波(SAW)方式

 

 長所としては、フィルムや透明電極を画面に張り付けない構造なので透過率が高く、視認性で優位に立つ。また、表面のガラスによって静電容量方式以上の耐久性や耐傷性が確保できる。万が一、表面に傷が付いてもタッチ操作の検出が行えるのもポイントだ(静電容量方式では表面の傷で信号が途絶えることがある)。構造上、経時変化や位置のズレが発生せず、高い安定性と長寿命が得られる。

 

 短所では、超音波表面弾性波を吸収できる指や柔らかいもの(手袋など)でなければ、タッチ操作が行えない点が挙げられる。基本的にペンは専用のものしか使えず、パネル上に付いた水滴や小さな虫などの異物にも反応してしまう。

 

 昨今では製造技術の向上などにより、コストパフォーマンスも高まっており、デメリットが少ない方式といえる。

光学方式(赤外線光学イメージング方式)

 「光学方式」のタッチパネルには複数の検出方法があるが、最近では赤外線イメージセンサーを利用し、三角測量により位置を検出する「赤外線光学イメージング方式」の製品が大型パネルを中心に増えつつある。

 

 構造としては、パネル上辺の左右端に赤外線LEDを1つずつと、イメージセンサー(カメラ)を配置し、残る左辺、右辺、下辺には入射した光を入射方向に反射させる再帰反射テープを張り付けている。指などで画面に触れると、赤外光が遮光された影をイメージセンサーがとらえ、三角測量によって座標が求められる仕組みだ。

光学方式(赤外線光学イメージング方式)

 

 長所としては、超音波表面弾性波方式と同様に透過率が高いほか、指や手袋をしたままの状態、通常のペンを使って入力ができ、マルチタッチ操作もサポートする点が挙げられる。また、構造上パネルの大型化が容易で、センサー部に直接触れないため耐久性が高いといった特徴も備えている。

 

 短所は、イメージセンサーを表示領域の外側に設けることからフレーム部分が分厚くなる点、検出精度が外光の影響を受けやすい点だ。例えば、照明が画面に強く反射したり、光沢素材などでタッチ操作した場合に誤検出が発生しやすい。

 

 Windows 7のリリース以降、同OSのマルチタッチ機能に対応した液晶ディスプレイや液晶一体型PCでは、この検出方式を採用した製品が多数発売されており、今後はさらなる普及が見込まれる。

電磁誘導方式

 上記のタッチパネルとは少し毛色が異なるが、「電磁誘導方式」にも触れておこう。液晶ペンタブレットやタブレットPC、プリクラ端末などに採用されている方式だ。

 

 そもそもディスプレイを搭載しないペンタブレットの入力方式だが、センサー部を液晶パネルに統合し、高精度のタッチパネルを実現している。磁界を発生する専用ペンで画面をタッチすることで、パネル側のセンサーが電磁エネルギーを受け取り、位置を検出する仕組みだ。

 

 入力には専用ペンを使うため、指や汎用のペンで入力できず、用途は限られるが、周辺環境の影響や不意に画面を触ってしまうことでの誤動作はないため、一長一短ではある。ペンタブレット向けの技術なので、ペンの筆圧(静電容量)を細かく検知して線の太さを滑らかに変えるなど、検出精度は優秀だ。画面の透過率や耐久性も高い。

タッチパネル検出方式の傾向をまとめる

 これまで取り上げたタッチパネルの特徴を下表にまとめた。同じ検出方式でも実際のタッチパネル搭載製品では、性能や機能は大きく変わってくるため、一般的な製品の特徴として参照してほしい。また、タッチパネルの技術革新や低コスト化は日々進んでいるため、あくまで2010年9月現在の傾向として見てほしい。

 

主なタッチパネル検出方法の違いと特徴
検出方式 抵抗膜 静電容量 超音波表面弾性波 赤外線光学イメージング 電磁誘導
光透過率
指でのタッチ ×
手袋でのタッチ × ×
ペンでのタッチ △(専用ペン) ○(素材による) ○(素材による) ◎(専用ペン)
耐久性
耐水滴
コスト

このように、タッチパネルの各方式には長所と短所が存在し、現状ではすべての面において勝っている検出方式はない。そのため、用途や環境に応じて最適な製品を選ぶことが重要になってくる。

 

EIZOのタッチパネルモニター