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クリエイティブワーク

プリンティングディレクター 松平 光弘氏が語るColorEdgeの魅力

このたび、長年ColorEdgeを愛用いただいているプリンティングディレクターの松平氏にColorEdge CG2700Sをお貸出しし、レビューをしていただきました。

松平 光弘氏

松平氏とColorEdge。左は長年ご愛用のCG279X(CG2700Sの前機種)、右は今回お貸出ししたCG2700S。

 

ColorEdgeとの出会い

人生において間違った決断をすることがよくあります。初めて私が会社を立ち上げた2006年、プリント制作に関わる機材を一式買い揃える必要があったのですが、まだ若かった私は仕事の経験だけではなく予算も不足しておりました。

写真や絵画、文化財のプリントを制作する上で私が三種の神器と呼んでいる機材があります。まずはインクジェットプリンタ。これだけは予算を気にせず最高品質の機材を導入しなければならない。次にペンタブレット。Adobe Photoshopを使って写真や絵画などの画像を精密に補正するためには必要不可欠な機材です。ただしこれは最高品質のものを購入しても、値段が知れている。要するにそこまで経済的なダメージはないわけです。そして最後にモニター。これは最も私の頭を悩ませました。当時からEIZOのColorEdgeの存在は知っており、もちろんその選択肢の中に入っていました。しかしながら現在でも同様に「高値」の花なのです。他にも国内外の大手メーカーがより安価でデザイン性に優れたディスプレイを販売しており、しかもその価格はColorEdgeの半額。経済的余裕のなかった私には、その申し出を断る理由がなかったのです。かくして私は目先の予算を抑えるために、より安価なディスプレイのひとつを選択しました。初期費用をいくらか抑えられたものの、その後しっかりとその代償を払った挙げ句、程なくしてColorEdgeを導入することになります。それは割高な授業料となりましたが、大きな学びを得ることにつながったのです。

ColorEdge CG2700S

結果として、予算を抑えたモニターの色とプリントの色が思うように合わないのです。私の仕事のゴールはより良いプリントを作ることなので、モニターとプリントの色が多少合わなくても、どうにかなると言えばなります。モニターを確認しながら、あとは感覚でプリントの明るさや色を調整すればいいのです。ただしその埋め合わせとして、高価なインクジェット紙とインクを余計に購入しなければなりません。後になって紙やインク代以上に多くの費用を無駄にしていたことに気が付くことになります。それは人件費、要するに自分の時間を失っていたのです。私の会社で私しか働いていないのであれば、それを甘んじて受け入れることもできますが、従業員がいるとなるとまた話は変わってきます。時間や費用をかければかけた分だけ良い制作物ができるかというと、そうとは言えない。目先のお金に惑わされてしまったことで、多くの紙やインクだけではなく、目に見えないこの尊い「時間」をも湯水の如く失っていたのです。
 

ColorEdgeの活用方法

ある程度の知識と実績を重ね、会社の規模が大きくなった現在でも、いざ購入しようとすると躊躇するColorEdgeシリーズ。当時の記憶が蘇るからでしょうか。しかしながら高価でも売れている製品にはその理由があります。他の多くのユーザーが語られている通り、ColorEdgeにはハードウェアとしての秀逸さがあります。その優位性は別格で、色を広域に表示し階調を正確にかつ滑らかに表現できる技術、モニター上の輝度ムラや色ムラをなくし均一に表示する技術、また色管理を自動化する技術など、プリント制作において必要不可欠な機能が十分に備わっています。しかしながら私の心を掴んで離さないのは、このハードウェアと同様、「ColorNavigator」というソフトウェアなのです。無料でダウンロードして使用できるのでその価値が伝わりづらくなっていますが、ColorEdgeの性能を最大限に使いこなすために必要なアプリケーション。この存在がなければ私も今頃、他社のモニターを使っていたかも知れません。
 

ColorEdge CS2400R

ColorEdge CS2400R


弊社、アトリエマツダイラと徳川印刷ではドイツやフランス、そして日本の和紙を含め合わせて20種類以上のインクジェット用紙にプリントをしています。同じデータからの出力でも、紙が変わると濃度や色調だけではなく立体感までもが変わります。立体感の再現をモニター上で行うことは不可能ですが、濃度や色調はモニターの表示自体をそれぞれの紙の出力結果に合わせることで、モニターとプリントの仕上がりを限りなく近づけることができるようになります。そのために「ColorNavigator」を活用しています。弊社ではあらかじめ使用頻度の高い用紙に合わせてそのモニター表示設定をColorNavigatorに保存、ご依頼の用紙ごとにColorEdgeの表示を切替えてプリント制作をしています。そうすることでモニターとプリントのマッチングに余計な気を配ることなく、「お客様に喜んでいただけるプリントを提供する」という本来の任務に集中できるのです。またそれは結果として、プリントの品質を高く維持しながらも制作費用を抑えることに繋がっています。

アトリエマツダイラ 徳川印刷

それでもモニターの表示とプリントの色を完全に一致させることはできません。
ついついモニターとプリントの色が合わないことに不満がたまり、「より良いプリントを作る」という本来の目的から逸脱してしまったご経験をお持ちの方々も多いはずです。モニターはあくまでもイメージ通りの仕上がりを表示するために存在しますが、プリント制作においてはモニターの表示がゴールではない。ゴールはプリントです。前述した通り、紙ごとにモニター表示を設定したとしても、完璧にその調子を合わせることができません。それではどう解決するのか。デジタル技術を使っていると大切なことを見失いやすくなるのですが、意図した通りのプリントを作り出すためには、最終的に人間が微調整を加えなければならないということです。プリント制作とは本来、そんなに簡単なものではありません。たとえAIの時代になっても、人間の経験と技術、言い換えれば「勘」が、究極を左右するという事実はこれからも変わることはないと思っています。
 

ColorEdgeの比較

この機会にColorEdgeの細かい部分をじっくりと見ていくことで、EIZOという会社の奥深さを改めて考えるきっかけになりました。今回プリント制作で使うことを前提に、主として静止画表示性能についてCG279XとCG2700Sを比較してみたところ、機種間での色の見え方に若干の差はありましたが、特段の変化は感じられませんでした。大きな機能や性能の劇的な変化を求め続けるのではなく、今までと変わらない品質を安定的にユーザーに届けること。それを会社として大切にされているのかも知れません。

そして、ハードウェアとして機能は充分に満たされていますが、ソフトウェアであるColorNavigatorのユーザーインターフェースの見え方と使い勝手に関しては、改善の余地はあると思っています。ユーザーすべてを満足させることは非常に難しいことは容易に想像が付きますが、大学や専門学校で学生に教えていることもあり、その複雑さを痛感することもあります。

それから周知の事実として、ColorEdgeは机の上で大きな存在感を放っています。しかしながらColorEdgeは作業している間、まったく圧迫感を感じさせないほど存在感がなくなるのです。それはCG2700Sの厚みが薄くなったことが影響しているのかも知れませんが、そもそもColorEdgeのデザインがこれまでと同様に非常にシンプルで主張が少ないからだと感じています。良い意味での存在感がない上に、旧製品のCG279Xはモニター前面のフレームにEIZOのロゴが入っていません。厳密に言えば画面上部のフレームにロゴが黒色でくぼんで入っているのですが、遮光フードをするとまったく見えない。思い切った決断をしたその会社の姿勢が私には非常に興味深い。そしてなぜか新しいCG2700Sにはフレーム左下にロゴが戻ってきましたが、薄いグレーで目立ちすぎないように入っています。細部に関しても気を配り、ユーザーの視点に立って製品を送り出そうとするEIZO社員の心意気と遊び心。そしてそれらを英断する会社自体の懐の深さにぐっとくるのです。

また普段は目にすることが少ないモニター背面部分へのこだわりも見られます。例えばUSB Type-Cケーブルで接続したラップトップPCへの安定給電や、パネルの高輝度に対応したことで発生する熱を効率的に放出するためのパンチングメタルの採用。そして煩雑になるケーブルをまとめるモニタースタンドの支柱の部品の改良など。見えないところにもしっかりとこだわりを持って製造している姿勢には、世界中にモニターを提供している会社としての社会的責任も垣間見られます。しかもそれらの改良をなんとも地味にそして地道にやっている。もう少し大きな声で伝えれば良いのに、本当に慎み深い。それらを冷静に観察すると、変わらないことも大切にする姿勢を貫きつつ、新たな挑戦をためらわない柔軟性を持った会社であることが伝わってくるのです。そんなEIZOが作るColorEdgeは工業製品でありながらも、造り手の愛が随所に感じられる非常に稀有な存在です。ColorEdgeの機能や性能だけではない魅力がある。私の心を掴んで離さない本当の理由は、ここにあるのかも知れません。

 

今回お使いいただいた製品

ColorEdge CG2700S
 

筆者

松平 光弘

株式会社松平 代表取締役
アトリエマツダイラ・徳川印刷 ディレクター
東京藝術大学美術学部先端芸術表現科
東京工芸大学芸術学部写真学科の非常勤講師を歴任

1999年ロンドンのラボでプリンターとしてのキャリアを開始。
株式会社アフロのプリンティングディレクターとして従事した後、
2017年アトリエマツダイラ、2020年に徳川印刷を設立。
国内外の写真展のプリント制作、絵画や国宝の複製に携わる。

アトリエマツダイラ matsudaira.co.jp

徳川印刷 tokugawa.matsudaira.co.jp


アトリエマツダイラ 徳川印刷

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