
ライオン
ケニア・マサイマラ国立保護区
「百獣の王」ライオンは、オスを中心にメスや子どもたちとプライドと呼ばれる群れを作り暮らしている。
その多くは草原地帯であるサバンナに生息し、狩りをするのは主にメスの役目だ。
日の出前の薄明かりのなか、そよ風が草を揺らすサバンナに僕はいた。
四輪駆動の車に乗り、この草原に生きる野生動物たちを探し始める。
ふと遠くに目をやると、一頭のウシがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
サバンナには野生のウシの仲間が数多くいるが、どうやらそのウシは家畜のようだ。
おそらく、マサイ族のウシが逃げ出してしまったのだろう。
様子を見ていると、ウシの背後に忍び寄るメスライオンの姿を見つけた。
そして次の瞬間、ライオンが一気に駆け出した。
驚いたウシは必死に逃げ、ライオンも全力で追う。
ついにライオンが飛びかかり、爪を立てた前脚でウシの背中をつかんだ。
だがウシは力強く走り続け、ライオンの前脚を振り払ってしまった。
それでも諦めずにライオンは追い続け、やがて二頭は地平線の彼方へと消えていった。
その後どうなったのか分からなかったが、夕方に出会ったマサイ族の人たちに聞くと、あのウシは無事に村へ戻ったという。
「百獣の王」とはいえ、狩りの成功率は4回に1回ほど。
ウシとマサイ族にとっては幸いだったが、ライオンにとっては残念な結果に終わった。
意外かもしれないが、アフリカのサバンナでは、人々の暮らしと野生動物の生態系が深く結びついている。