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株式会社ピクチャーエレメント 様

[映像と色域の世界]Vol.01 4K制作のカラーマネージメントの現状とは。
ピクチャーエレメント齋藤精二氏インタビュー

・PRONEWS 2015年11月30日掲載記事から転載

映像と色域の世界

フィルムの基準、デジタルの基準

東京・世田谷の東宝スタジオ内に構える株式会社ピクチャーエレメントのスタジオ
東京・世田谷の東宝スタジオ内に構える株式会社ピクチャーエレメントのスタジオ。
同社では映画をメインにテレビやPVなどのDIやVFXなどのほか、関連した機材のレンタルなども行っている


 映像技術の進化は、年々等加速度的に進化を遂げている。中でもアナログであるフィルムからデジタルであるファイルベースへと移行した事は大きな変化であると言える。その変化によって多くの事が様変わりして来た。ちょうど2005年頃から日本でもDI(Digital Intermediate)の普及が加速し、2007年頃にREDのカメラが登場した。さらに2009年には映画「アバター」が公開され、この作品が3D作品であるためDLP上映が必須であったことから、映画館は一気にデジタル化が進んだという。

 こうした流れの中、2011年に株式会社ピクチャーエレメントは映画のVFXやDIを中心に行う会社として設立された。今回、同社でDCI対応の4KモニターとしてEIZOのColorEdge CG318-4Kを導入し、DCI規格による4Kテレビ番組制作を行った。次世代放送規格ではRec.709の色域より広いカラースペースとなり、従来の放送よりも色の表現が広がるが、カラーマネージメントの需要性は増し、モニターも高精度なものが要求されることになる。それらを活かす上で、どんなことが重要になってくるのであろうか。株式会社ピクチャーエレメント取締役 DIプロデューサー/カラーグレーダー齋藤精二氏にお話しを伺った。

今回お話をお伺いしたのは、B(ブルー)のスタジオ
社内には「R」「G」「B」と3つのスタジオがあるが、今回お話をお伺いしたのは、B(ブルー)のスタジオ

EIZOのColorEdgeモニターが装備されている
R(レッド)スタジオは映画関係の作業を行うスタジオで、DLPシネマ機が備えられた大きなスクリーンがある。
もちろん、ここにもEIZOのColorEdgeモニターが装備されている


 

フィルムからデジタルへ

株式会社ピクチャーエレメント 取締役 DIプロデューサー カラーグレーダー齋藤精二氏
株式会社ピクチャーエレメント 取締役 DIプロデューサー カラーグレーダー齋藤精二氏

 

齋藤氏:フィルムの場合、色を調節した結果は現像して確認するまでにかなりのタイムラグがあります。しかしデジタルではその場で確認できます。この時、正確な規格があり、それに合致したモニターがあれば、すごく細かいところまで追い込むことが可能になります。

一般に業務用マスターモニターにはセルフキャリブレーション機能が標準搭載されてはいません。そのために専用のプローブなども必要になり、トータルのコストとしては、かなり高価になってしまうのです。VFXやDIを生業としている会社で1人1台のマスターモニターを装備することは、当初こうした背景からかなり難しいのが現状でした。4K対応のマスターモニターとしてはソニーやキヤノンなど各社から販売されていますが、マスターモニター同等の確認ができる4KモニターとしてColorEdge CG318-4Kを導入しました。コストパフォーマンスが非常に高く、マスターモニターの市場が変わるのではないかと思ったぐらいです。このクオリティでEIZOさんが撮影現場に耐えうるコンパクトなフイールドモニターを開発してくれると嬉しいのですが(笑)。

デジタル時代の撮影の進化に必要なものとは

デジタル時代の撮影の進化に必要なものとは

齋藤氏:フィルムはタングステンが3200K、デイライトが5500Kと色温度の基準があるメディアなのです。こうしたセンターラインが決まった撮影メディアを、使う側が撮影でどうアレンジしていくかが勝負どころで、ベースがあるものの上に積み重ねていくことでクリエイティブワークを磨いていました。

デジタルのカメラはある意味何でもできます。しかし、それが弱点であるとも言えます。いろんな設定で使うことができるし、修正の幅も広いのですが、逆に撮影のセンターラインが複雑になりやすいのです。センターラインがある、つまり基準があるという意味でフィルムは非常に重要な結果を生み出していて、カメラとかフィルムとかハードウェア、メディアが進化しただけではなくて、撮影技術そのものが進化していたと思うのです。仕上がりがリアルタイムで見られないという不便さが、逆に想像力などの感性を磨いてくれた面もあったと実感しています。

カメラやソフトの設定だけで生まれたトーンは、撮影技術の進化ではなくて、道具が進化しただけの結果になる恐れがあります。撮影技術の進化でカメラマンの重要性、個性を表現するという意味では、フィルム撮影は技術のセンターラインがはっきりして、カメラマンが積み重ねていった技術や個性が非常に分かりやすかったのです。クリエイティブワークがハードやソフトに依存し過ぎて、個性が出しにくくなることが一番怖いことだと思いますので、私が作品に臨む上で一番大切にしていることは、撮影前の作品基準をカメラマンと正確に決めるための「ルックマネージメント」という行程です。

一方でデジタルが生み出した膨大な可能性は、とても魅力的だとも感じています。撮影に深い敬意を持つ身としては、デジタルに使われるのではなく、使い操る中で、フィルムの時のような撮影技術の進化に感動する瞬間をずっと感じていたいのです。ハードの進化によって、スペック的にきれいに撮ることは現在では誰でもできてしまいますが、Instagramなどが流行るのは個性的な画を一般の人たちも求めているからと言えるのではないでしょうか。

基準を決めてはじまるスタート

基準を決めてはじまるスタート

齋藤氏:センターラインがきちんと決められれば、演出上の大胆なトーン創りや、VFXのCGマッチングなどを判断しやすくなりますので、カラーマネージメントは撮影、編集、VFX、サウンドステージ、初号まで一貫して管理することが効果的です。特にカラーグレーディングにおいて、カラーマネージメントは一心同体です。

正確なカラーマネージメントの上でしかクリエイティブなカラーグレーディングは成立しませんので、両方の技術を持ち合わせていることはプロとしては必須条件だと言えます。私がカラーグレーディングと同じレベルでカラーマネージメントの技術にこだわっているのは、微妙な色のクリエイティブワークを安心して追求したいからです。

人間の目は優秀ですが、ある意味凄く不安定です。例えば明順応や暗順応であったり、朝と夜とでは明るさの感覚が違ったりするので、自分の目を過信しないようにしています。弊社のRスタジオでは、プロジェクターとモニターのマッチングの精度を高めています。何かのトラブルでプロジェクターの明るさや色が変化したとして、そのときに合わせてあるモニターがあると、どちらかの機材に不具合が起きていることに気付くことができます。

もちろん、定期的にキャリブレーションを行いますが、機械ですからエラーも生じます。エラー状態でカラーグレーディング作業などを行った場合、その間の作業がすべて無駄になってしまいます。視覚的に評価して進めた作業で基準が変われば、全く同じに再現するのは困難ですから、大損害になるわけです。作品に向かい合う方々の想いとか労力を無駄にしないための技術でもあります。

基準を共有するために

齋藤氏:映画の作業においては、複数の会社と共同作業になる場合が多く、作品毎にカラーマネージメント環境を構築する上で、キャリブレーションのお手伝いやモニターを貸し出して対応することがあります。そうしないとお互いに正確なジャッジができないですから。モニターの環境を可能な限り同じにすることで、より細かな色へのこだわりができるようになります。実際にEIZOのモニターを使ってみて体感すると、みなさんその必要性を納得してくれますね。

モニターとプロジェクターの差を埋めるのは一昔前は難しかったのですが、ハードの進化によって、かなり近い状態まで追い込むことが可能になりました。

また、弊社では撮影・編集・VFXというそれぞれの離れた環境のマネジメント・コミュニケーションを強化するために、「PE RUSH!」というiPadを活用したサービスも提供しています。

進化する規格

全てのColorEdgeが同じ規格に合わせてキャリブレーションされている
オートデスクFlame Premiumからの4K映像出力をそれぞれのモニターへ接続し、民生機の4K TVとCG318-4KにはSDI to HDMIコンバーターを使い、HDMI分配機を通して同じ画を表示できる。CG318-4Kはプレビュー用にマスターモニター代わりに活用している。手前 のモニターは左が編集作業用のColorEdge CG241W、右がカラーグレーディング用のColorEdge CG277。2台同時進行で作業が可能だ。全てのColorEdgeが同じ規格に合わせてキャリブレーションされている

 

齋藤氏:この先BT.2020とかHDRとか新しい規格が控えてますが、幅広い規格を活かす上で、そのスペックを正確に管理する表示デバイスが必要となります。作品に新しい規格を採用する上で、その規格に対応したモニターを各行程の環境に揃えることは重要です。DCIという規格をDLPプロジェクターでなく、モニターできちんと再現できるようになったことは、映画の各作業環境において確実に効果的な進化でした。

4K放送での利用

スタジオにはDCI色域を98%まで再現できるEIZOの4KのモニターColorEdge 318-4Kと、Rec.709準拠の一般民生用の4Kのテレビモニター
スタジオにはDCI色域を98%まで再現できるEIZOの4KのモニターColorEdge CG318-4Kと、Rec.709準拠の一般民生用の4Kのテレビモニターが並んでいる。
画面はREDで撮影したテストリール

齋藤氏:放送局も4Kの時代を見据えて制作を始めています。某テレビ局の番組で、撮影~VFX/CGを全て4Kで行った番組のマスタリング作業を弊社で担当させて頂いたのですが、テレビ番組で初めて4K-DCIという仕様で仕上げました。当初BT.2020で、という話もありましたが、対応するモニターもなかったため、映画で構築した実績を活かすべくDCIを採用することになりました。

発売したばかりでしたが、EIZOさんからCG318-4Kをお借りして、マスタリングのプレビューで使用しました。結果、従来のテレビでは見たことのないCGのクオリティが引き出せたと思います。まだ放送はRec.709が色基準となっていますが、Rec.709より広いDCI-P3のカラースペースでマスターデータを保存してあるので、将来BT.2020になったら、より高画質で放送できます。もちろんマスターデータは4Kですので、スクリーンで上映したいとか4K放送が始まったらそのまま使うこともできますね。

DITからオンライン編集からグレーディング、最終的なマスタリングも含めて弊社で4K処理を行いました。2台のモニターにグレーディング作業の映像を出力しながら、リアルタイムで色調を1カットずつ調整していくという作業になります。実際の映像を見るとよく分かるのですが、CGの微妙な質感が4Kではきちんと出てます。グレーディングもCG318-4Kと民生4KTVを並べたこの状態でやりましたが、大画面で見ると4Kならではの立体感を感じましたね。この番組は全3話ということもあり、膨大なデータ量になりましたが。

“4K”というと映画というイメージが強いかもしれませんが、スポーツ中継や音楽ライブ、医療といった「情報」としての映像から普及するんじゃないでしょうか。映画を代表とした「表現」としての映像はスペックと反比例した制作費の減少が課題ですね…。Netflixを代表とするオンデマンド配信のコンテンツ制作が活路を見出してくれるといいなと。

アーカイブでの色の基準

アーカイブでの色の基準

齋藤氏:今まではテープがあったので、アーカイブして将来に繋ぐにしてもテープの規格に合わせることで継承できたのですが、データになるとあらゆるフォーマットが収録できますので、そのデータがどのような規格で作られたのかの情報がないと、次の時代に正確に引き継げなくなる可能性があります。フィルムの凄いところは100年前のものでも、メディアに画そのものが記録されており、永年築かれた規格があるので、今でもその映像を判断することができます。デジタルデータで保存された映像を100年後に見る場合、当時の規格で決められたものであると判断することになると思いますので、Rec.709やDCIといった国際規格に準拠したマスタリングは最低限の条件ですね。

グレーディング作業の難しい面

齋藤氏:実際の作業現場では、直接的な色の種類というよりは、「渋めで」とか「艶っぽく」とか、あくまでシーン毎の芝居や表情に相応しいトーンを組み立ていくのが基本ですが、そこが一番難しくて面白いところです。観客の目線で芝居が引き立つトーンを探すという極めて直感的な作業です。ですので、作業自体は最後まで感覚的に行きたいので、色を作る行為はシステマチックにはしたくないです。クリエイティブワークはできるだけ柔軟にして、システム化しない。けど、生まれた色調は正確に観客まで届けたいので、それを叶えるためのテクニカルな部分、土台となる技術は徹底してシステマチックにしたいのです。その土台の上ではみんなが自由にやれるという状態です。映像の世界でマネージメントって要素はあらゆる部分で必要になってきていて、クリエーティブワークを行う人たちが、自由にやりたいからこそ、土台のマネージメントをしっかり構築することが大切だと感じています。

撮影の前にカメラマンと撮影基準を一緒に考えて、このシーンをどういうトーンにしようとか、そのためにはどういう美術や衣装の配色がいいかとか、最終的なイメージをこうしたいから合成素材はどうしておこうかとか、スタートラインから作品に参加して臨みます。従来のポストプロダクションという枠組みを超えて、プリプロダクションから積極的にクリエイティブワークに参加していくのが弊社のスタイルです。

カラーグレーディングの理想形とは

カラーグレーディングの理想形とは

齋藤氏:撮影された画が、最高のタイミングで最高の光で最高の色味だったら、グレーディングの必要はありません。つまり撮影現場でパーフェクトな画や芝居が撮れれば後処理の必要はないのです。料理の世界と同じようなもので、食材が被写体だとすると、それは芝居であり、美術や衣装であるわけです。カメラマンや照明技師は料理人で、カメラやレンズ、ライトは調理器具です。食材や調理に最高の環境が整えば、カラーグレーディングの役割って最後の調味料なんですよね。食材と料理を引き立てるというポジションだと思います。

カラーマネージメントはその正確な味見をする環境です。どんな料理を作るかによって調味料も変わりますが、日本料理・中華料理・フランス料理があるように、映画でもラブストーリー・サスペンス・コメディなどがあって、そのジャンルにあった調味料があると思います。何種類もの調味料を用意して、食材と料理に合わせて的確に選択しなくてはいけないし、掛けすぎて食材の味を絶対に殺しちゃいけない、というのが私のカラーグレーディングのスタイルです。これから先も最高の食材選びと調理のお手伝いをし、クリエイターのみなさんに「使ってみたい」と思われる調味料が生み出せれば幸せです。目指すは醤油か味噌ですかね(笑)。

最後に、実際にカラーグレーディングを担当させて頂いた、現在劇場で上映中、及び今後公開予定の作品をご紹介させて頂きます。

 

CG318-4K

 

 

■ご協力

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