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「HDR時代」到来 テレビからiPhoneまで、HDRの現状を分かりやすく解説

4Kの“次”の技術として映像分野で注目を浴びているHDR(High Dynamic Range)。「圧倒的なリアル感」とは聞くものの……そもそも何がすごいの? 静止画HDRとの違いは? HDRを楽しむには何が必要?

  • 下記の記事は2017年08月22日に「ITmedia PC USER」(ITmedia)に掲載されたものです。

     

最近見かける「HDR」(ハイダイナミックレンジ)って何だろう?

HDRリファレンスモニター「ColorEdge PROMINENCE CG3145」
HDRリファレンスモニター「ColorEdge PROMINENCE CG3145」

 最近、映像の分野において「HDR」という単語が頻繁にみられるようになった。HDRとはHigh Dynamic Range(ハイダイナミックレンジ)の略称で、例えば、家電量販店売り場でテレビの商品ポップに「HDR対応」と書かれていれば、それは「より広いダイナミックレンジを備えたテレビですよ」という意味で用いられている。

 HDRと聞いて、写真好きの人は「ああ、アレか」と早合点した人もいるかもしれない。HDRという単語自体は、iPhoneをはじめとするスマートフォンの写真撮影機能にHDRモードを搭載した製品があるので、それほど写真に興味がなくても目にしたことがある人は多いだろう。だが、写真の世界で以前から使用されていたHDRと、昨今の映像機器がうたっているHDRではアプローチの仕方が異なる。
 

写真のHDRと動画のHDRの違い

iPhoneのHDRモードとは何が違う?
iPhoneのHDRモードとは何が違う?


 ダイナミックレンジとは、階調性を保ったまま表示できる明暗差の幅を指す。例えば、屋内撮影で部屋の様子が分かるように撮影すると、窓の外が白く飛んで見えなくなった、あるいは、窓の外の景色に露出を合わせると今度は部屋の中が暗くなりすぎてしまった、という経験はないだろうか。

 これは、明るい部分(窓の外)と暗い部分(部屋の中)の差が大きすぎるために起きる。このとき仮にダイナミックレンジが十分に広ければ、映像の中で明るい部分が白飛びしたり、暗い部分が黒つぶれすることもなく同時に表示できる。そしてこのレンジが広ければ広いほど、肉眼で見た風景のように、よりリアルな映像を体験できるというわけだ。

 実は現実世界のダイナミックレンジは非常に広い。例えば、地球上で最も明るさを感じられる太陽は、直に見たときで16億 cd/m2、屋外で普通に感じる明るさだと2000 cd/m2ほどになるという。人間が感じられるレンジは自然界の3割ほどに制限されるものの(瞳孔の調整によりさらに拡大する)、それでもかなりの広域を判別できる。

 一方、カメラなどの入力機器は、CRT時代のダイナミックレンジ(Standard Dynamic Range:SDR)を前提とした設計になっており、このSDRで表現される明るさのレンジはわずか0.05~100 cd/m2ほどしかない。つまり、従来のSDR映像では、人間の目に映る現実の光景とはかけ離れた描写になってしまう。

従来のSDR
従来のSDR(Standard Dynamic Range)はダイナミックレンジが0.05~100 cd/m2に制限される。このため、ソースの階調特性は失われ、明部は白飛びし、暗部は黒つぶれしてしまう。これは元々CRTを想定してコンテンツが制作されていたためだ


 そこでiPhoneなどに搭載される“HDR撮影”では、異なる露出で撮影したデータ(明部優先で撮影したデータと暗部優先で撮影したデータ)を用意し、輝度を圧縮しつつ適正露出の部分を合成することで、階調の欠落を防ぎながら擬似的に肉眼で見た風景の印象に近づけている。ただし、これはあくまでSDRの範囲内で圧縮しているため、白飛びや黒つぶれは避けられるものの、実際にダイナミックレンジが広がっているわけではない。

スマートフォンなどでうたわれる
スマートフォンなどでうたわれる“HDRモード”は、露光の異なる複数の写真を合成して、明部と暗部の階調性を保ちつつSDRのレンジに圧縮する


 一方、映像機器のHDRでは、輝度情報のレンジそのものを0.0005~10000 cd/m2まで拡張する。単純計算で明るさはSDRの100倍だ。もちろん、市販されているHDR対応テレビでこれほどの輝度を持つ製品はないものの、コンテンツ制作用の観視条件(ITU-R BT.2100)として、最大輝度1000 cd/m2、最低輝度0.005 cd/m2という目安はある。HDRによって現実の風景に近づいた描写が可能になるのは間違いない。ほの暗い室内に差し込んだ一条の陽光のようなハイコントラストのシーンはより印象的に、テレビ画面の中の夕日は圧倒的なリアル感でリビングルームを照らすことになるだろう。

HDR(High Dynamic Range)
HDR(High Dynamic Range)は、輝度情報のレンジそのものを0.0005~10000 cd/m2まで拡張。人間の目に映るコントラスト感で映像表現を可能にする。ちなみに、現在一般的に出回っているHDR対応のテレビは1000 cd/m2前後だが、それでも従来の10倍は明るく、ハイコントラストだ
 

写真のHDRと動画のHDRの違い
写真のHDRと動画のHDRの違い。HDR動画では輝度レンジそのものを広げて表現力を高める


 このように、映像分野でHDRの動きが加速しているのは、ハードウェアの進化によるところが大きい。実はカメラなどの入力機器は既にSDR(0.05~100 cd/m2)を大きく上回るダイナミックレンジを確保しており、出力側のディスプレイも、液晶用バックライトの進化によってSDRの数倍に達する輝度を備えている。また、有機ELならさらに広域のレンジを確保しやすい。

 そこで、従来のSDRではなく、入力機器のデータを極力スポイルせずに表現できる表示機器や伝送方式を用意してはどうか? という動きが急激に盛り上がってきた。現在はご存じの通り、“HDR対応”をうたうテレビが続々と登場し、家電量販店を賑わせている。

 

4K/8Kを超える衝撃! HDR映像の圧倒的なリアル感

 色々と書いてきたが、4Kや8Kなどの数字で理解しやすい技術と異なり、HDRは理屈では分かってもなかなか想像しづらい。逆に言うと、実際に見さえすればSDRとHDRの違いは歴然だ。そうした機会のない方のために、現在EIZOで開発中のHDRリファレンスモニター「ColorEdge PROMINENCE CG3145」を内覧した拙い雑感を記しておく。

ColorEdge PROMINENCE CG3145
ColorEdge PROMINENCE CG3145


 今回、ColorEdge PROMINENCE CG3145に映し出された様々な映像を眺めながら第一に思ったのは、「本当にリアルさを求めたものなのだなあ」ということ。実際に体験するまでは、写真におけるHDR合成のイメージが強かったため、やや派手目の描写を思い描いていたのだが、実際にはそのようなこともなく、シャドーとハイライトが素直に伸びている印象を受けた。レンジが広いため、細部もしっかりと再現されており、非常に奥行きのある描写だ。映し出されたモノが本当にそこにあるかのようなリアルさがある。

 人の目は暗部の階調に敏感と聞くが、筆者が最も驚いたのもまさにこの点。夜の水面に街の灯が映り込んでいる映像は、水面の微妙な揺らめきがシャドーのみで表現されており、しかもその真横では街の灯が白飛びせずに色を保ったままキラキラと映り込んでいる。一般的には描写が難しいとされる、シャドーとハイライトが混在しているシーンだが、ColorEdge PROMINENCE CG3145ではしっかりと再現できていた。

 SDRのディスプレイと見比べるまでもなく(実際、隣に並べて映像を流していたのだが)、その違いは一目で分かる。もちろん、今回内覧したColorEdge PROMINENCE CG3145の試作機は、HDRコンテンツを制作するための業務用リファレンスモニターであり、一般的なHDR対応テレビとは異なるが、それでもHDRの世界観を手軽に体験したいなら、一度家電量販店のテレビ売り場に足を運び、HDR対応テレビを視聴してみる価値はあると思う。

4KとともにHDRが大々的にうたわれている量販店のテレビ売り場
4KとともにHDRが大々的にうたわれている量販店のテレビ売り場

 

HDRコンテンツを楽しむためには何が必要?

 さて、HDRが今までない映像体験をもたらしてくれるのは分かった。では、一般ユーザーがHDRを堪能するためには何が必要だろうか。

 まず第一には、テレビがHDR10の信号入力に対応していること。これはHDR対応をうたっているかどうかを見ればすぐに判別できるだろう。ただし、4KのテレビでもHDR非対応の製品はまだ市場にあるので、その点だけは注意したい。

 また、信号入力に対応しているだけで輝度やコントラスト比が低いテレビも存在する。当然ながら高いほうがHDRのコンテンツをよりリアルに表示できるが、なぜかテレビではこれらのスペックが公表されていないことも多い。そのようなときに1つの目安になるのが「ULTRA HD PREMIUM」ロゴだ。これはUHD Allianceがコンシューマーの混乱を避けるために制定したもので、デバイス、ディストリビューション、コンテンツの3種からなる。認証されたデバイスで、認証されたコンテンツを見れば、HDRを十分に堪能できますという保証である。
 

「ULTRA HD PREMIUM」ロゴ ソニー独自の「4K HDR」ロゴ

UHD Allianceが進める「ULTRA HD PREMIUM」ロゴ(写真=左)。一方、ソニーは独自の「4K HDR」ロゴを策定している(写真=右)


 ロゴを取得するための要件は多岐に渡るので詳細は割愛するが、この中でディスプレイは「ピーク輝度が1000 cd/m2以上、黒レベル0.05 cd/m2以下」または「ピーク輝度が540 cd/m2以上で黒レベルが0.0005 cd/m2以下」と定められている。前者は液晶、後者は有機ELを対象とした規定だ。難点は、その他の要件もかなりハードルが高いため、ロゴを取得した製品は、現状ではほぼ例外なく高めの価格帯になることだ。

 次に必要となるのは、HDRに対応したコンテンツ。どのようなコンテンツを視聴するかで変わってくるが、キーとなるのは「HDR10」と「Dolby Vision」という2つのフォーマットだ。HDR10はHDRの標準的なフォーマットであり、HDR対応という表記があればHDR10対応と思って問題はない。続くDolby Visionとは、その名の通りDolbyが開発した独自のHDR規格だ。ビット深度を12ビットに拡張(HDR10は10ビット)することで、より臨場感のある映像の実現を目指している。

 Dolby Visionで何よりユニークなのはメタデータの仕様だ。HDR10のメタデータはコンテンツ毎に定められているが、Dolby Visionではフレームごとにメタデータを定めているため、シーンごとに輝度を動的に設定することができる。これにより、Dolby Visionに対応したテレビであれば、それぞれのテレビの輝度性能に応じて最適な表示が得られる。

 なお、Dolby Visionの普及状況をみると、国内ではNetflixやひかりTVなどの動画配信サービスが採用・配信している。当然ながらデバイスもDolby Visionに対応する必要があるが、テレビはここにきて採用する機種が増え、待望のプレーヤーも発売されるなど、今後の伸長が予想される。

動画配信サービスも4K/HDR対応コンテンツを配信している(画面はNetflix)
動画配信サービスも4K/HDR対応コンテンツを配信している(画面はNetflix


 そのほか、HDRを採用しているデバイスとしては、家庭用ゲーム機のPlayStation 4やXbox One Sなども挙げられる。実写をリアルにという方向だけでなく、CGを実写のようにという動きもあるわけだ。考えてみれば、PCゲームの世界においてもHDRレンダリングは半ば当たり前の存在だった。これまではSDRのレンジにスポイルせざるを得なかったが、今夏にはHDR対応PCディスプレイもポツポツと発表されており、テレビの勢いと合わせて一気に普及が進むかもしれない。

家庭向けゲーム機もHDRに対応している(写真はMicrosoftのXbox One)
家庭向けゲーム機もHDRに対応している(写真はMicrosoftのXbox One

 

より美しく、よりリアルに――高画質化に必要な5つの要素

 このようにリアルな映像を追及する技術は日進月歩で進んでいる。一般に、映像の高画質化には、解像度、ビット深度、フレームレート、色域、輝度の5つが挙げられる。この内、最初の3つはいずれもピクセル密度に関係したものであり、時代とともに徐々に進化してきた。長らく停滞していた色域についても、数年前にRec.2020という広色域が定められた。そして、残る課題であった輝度が、ここに来てHDRという形で進化を遂げようとしている。

映像を高画質化する5つの要素。そのうちの「輝度」がHDRで進化する
映像を高画質化する5つの要素。そのうちの「輝度」がHDRで進化する


 前述したように、テレビやディスプレイなどハードウェア側の表示性能が引き上げられたことで、カメラが記録したデータを損なわずに表示できるようになり、リアルに迫る美しさを表現する土台が整いつつある。

 こうしたトレンドを受け、HDRコンテンツを制作するプロの制作現場に向けて現在EIZOが開発している液晶ディスプレイが、先に触れた「ColorEdge PROMINENCE CG3145」(12月発売予定)だ。

 

HDR世代の映像制作現場に向けた「ColorEdge PROMINENCE CG3145」

 ColorEdge PROMINENCE CG3145は液晶の駆動方式にIPSを採用する。一般的に液晶ディスプレイ、特にIPS方式は黒を黒く再現するのが難しく、コントラスト比も得がたい。液晶ディスプレイで手軽に高いコントラスト比を出すには、ローカルディミング技術がある。ローカルディミング技術では直下型のLEDバックライトをエリアで区分し、エリアの映像に合わせてバックライトの輝度を調整するため、輝度や色度が常に変動することになる。 ColorEdge PROMINENCE CG3145


 また、明暗差が大きい部分では、本来暗い部分にも光が回り込んで明部の輪郭が滲んでしまうハロー現象も生じやすくなる。こうしたデメリットは、視聴用のディスプレイならばともかく、制作現場で使われるリファレンスモニターとしては望ましくない。

ローカルディミングあり ローカルディミングなし

高いコントラストを実現するためにバックライト輝度を細かく調整するローカルディミング技術(左がローカルディミングあり、右がなしのイメージ図)。
左のローカルディミング技術採用では、明暗差が大きい部分で光がにじむハロー現象が起きやすい


 そこでEIZOは、新型のIPS液晶パネルを採用し、ローカルディミング技術を用いることなく最小輝度を0.005 cd/m2以下にまで落とすことに成功。結果としてネイティブコントラスト比も100万:1にまで引き上げている。また、リファレンスモニターの中には、明るい映像を表示した際、パネル寿命を延ばすために一時的に輝度が落ちるものもあるが、ColorEdge PROMINENCE CG3145ならどのような映像でも、常に安定した輝度、色度を保った状態で作業できるのが強みだ。

 ColorEdge PROMINENCE CG3145はグレーディング作業用のリファレンスモニターを目指しているため、かなり高価になることが予想される。ただ、コンテンツ制作のワークフローにおいて、撮影や編集、コンポジット作業など、そこまでの再現性を必要とせず、大まかなアタリを付けられれば良い工程もある。こうした現場のために、EIZOには既存の4Kモニター「ColorEdge CG318-4K」および「CG248-4K」のカラーモードに配信・映画制作向けのHDRであるPQカーブ(PQ1000、PQ300)を書込んで(擬似的な)HDRに対応するアップグレードサービスも用意されている。より安価にHDRのプレビュー環境を導入できるため、これからHDRワークフローを組む制作者にお勧めしたいサービスだ。

 

より詳しいHDRの技術詳細はこちらをチェック!
HDRの基本から最新トレンド、おすすめの制作ワークフローまでやさしく解説しています。

よくわかる、HDR徹底解説!
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関連リンク

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